室生犀星の小説を翻案した成瀬巳喜男監督の名作。高名な作家の娘が文学青年と結婚するが、夫が自分の才()能を信じ()て売()れない小説を書き続けるため生活が困()窮し、夫婦()仲も冷めていくという物語を成瀬独特の淡々とした作風で描いている。暗く起()伏に乏しい内容でありながら、その映画()的()展開は圧()倒的に素晴らしい。名声は天地の開きがありながら、()同じ志を抱く作家としてのライバル意識を燃()やす杏子の父と夫が、庭に隔てた障子越しに執筆中の互いの姿を気にし合う()シーンなど、さりげないドラマの肌合いを捉える成瀬演出の白眉である()。物語()とは直接関係のない細部の卓抜な描写も印象的。
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